第8章 嫌がらせ
アルと共に登校した夏休み明けの初日。
何故か私は、ある令嬢から濡れ衣を着せられていた。見た目は才女を地で行く令嬢だ。ただ、彼女の言っている意味が分からない。
「私が筆頭婚約者候補なの。伯爵家程度のそれも婚約者がいながら、殿下に恋慕するなんてどんな神経をしているのかしら。」
私が第一声に浴びせられた言葉がこれだ。
「メイリー、久しいな。それと、それはメイリーの思い違いだ。何処でそんなバカな話しを聞いて来たのか知りたいところだが。」
「モーリス様。わ、私は身の程知らずのこの女に分からせて差し上げようと思っただけですわ。」
「メイリーは、昔からケヴィンが好きだったもんな。」
「趣味悪いな、メイリーは。」
残念な子を見るセーランの言葉に、彼女はキッと睨んだ。
「相変わらず、殿下の素晴らしさが分からないなんて、貴方達の方こそどうかしていると思うわよ。」
「えぇっ・・・そんなの一生分からなくていいよ。」
「兎に角、メイリーの思い違いだ。それに、この二人の仲の良さは結構有名なんだがな。」
「それも、この女がそういう風に見える様にしているだけなのでしょ?お生憎様。私はそんなことで騙されたりなんかしないわ。」
「ホント、その頭の固いところも相変わらずだな。幼馴染みのよしみで言っておいてやるが、フェリシア嬢はケヴィンに砂粒も気持ちはないし、婚約者と相思相愛だ。メイリーもこの二人の普段の姿を見たら、それが理解出来ると思うぞ。」
アルが彼女の前に立ち止まり、ジィッっと見下ろした。表情の欠片も無いままで。
「な、何よ・・・。」
彼女の腰が引けてる。こんな事をされたのは、初めてなのだろう。
「親の権力だけで王族に名を連ねる事が出来ると思っているのなら、随分、貴様は王族というものを甘くみているのだな。」
彼女の顔が赤くなり、アルに向かって手を振り上げた。しかし、アルはその手を簡単に避ける。
「私のフェリシアは私のこの顔も好きだと言ってくれる。思い上がりも甚だしく、頭の弱い貴様に傷など付けられれば私の可愛いフェリシアが泣くやもしれない。それと、不愉快だから気安く私に触れようとするな。気分が悪い。」
令嬢相手に容赦ない物言いに、私は眩暈を覚える。確かに、アルの顔も好きだけど。それは認めるけど。
その場で更に容赦ないのは、この二人だ。失笑中である。