第5章 トライアングルのち…【虎杖悠仁&伏黒恵・高専編】
「雫、言いたくなかったら無理に話してとは言わない。誰にだってそういう事の1つや2つあるはずだから…
私達は頼りないかもしれない、虎杖はバカだし伏黒はデリカシーないし…
けど…
仲間の力になりたいって思ってない人間は多分ここにいない。聞けなくてごめん…言えなくてごめん…
雫が一人で抱えるのだけはもう嫌。
何でも話して。私達4人しかいない同期で、仲間なんだから…」
釘崎の目尻からポロポロと涙が溢れ、雫が釘崎をふわりと抱きしめた。
『ごめん…野薔薇。そんな風に思っててくれたんだ…』
「当たり前じゃない…」
『…わかった。頼る…甘える……いいの?』
「たり前じゃん。俺らも頼ってよ。なぁ?伏黒。」
「ああ。」
俺と虎杖は雫と釘崎を抱きしめるように肩を組み合った。
らしくないとは思ったが嫌ではなかった。
釘崎と雫が鼻をすすりながら涙を拭い、俺と虎杖は紙コップに2人の飲み物をついだ。
…落ち着いた所で、雫が自分の話を始めた。
雫は小さい頃から見える側で、母も同じだったという。雫は母を慕っていたが、あまり家にいない人だったらしい。ある時期を境に母親は家に帰らなくなり、父との二人暮らしが始まった。
自分の事は全て自分でやった。
参観日や発表会も誰も来なかった。1番辛かったのは運動会の昼ご飯だったという。皆家族で食事をとる中、1人が辛くてトイレの中で食べたのだと、笑って言う雫の目からは涙が零れ落ち、その記憶は今でも雫を苦しめているのかもしれないと唇を噛んだ。
俺も幼い頃は決して辛くなかったわけじゃないが、津美紀がいた。けど雫には誰もいなかった。
中学3年の時、その母親から突然連絡があった。
一緒に住もう、と。当然雫に興味がなかった父親は承諾した。
これまでの辛さは全て吹き飛んだ。
今まで話せなかった事を一緒に話し、できなかった事をしたい、一緒にいなかった年月を取り返すように共に過ごしたい。同居の前日は興奮で一睡もできなかったという。
母親の家に向かうと、その期待や希望は一気に崩れた。
そこまで言うと雫は押し黙り、なかなか続きを話すことができなかった。