第4章 アングレカム【五条悟・教師編】
息を切らして五条先生の部屋の前で止まり、考える。
何て言ったら……
いや、考えなくていい。
ありのままの私の気持ちを伝えたらいい。
ピンポン…
返事がない。
一分、二分と待っても出てくる気配はなかった。
けど、窓からは電気がもれている。中にはきっといる…
意を決してもう一度インターホンを押した。
…が、返事はない。
十分待っても、十五分待っても何の返事もなく、出て来てはくれない。
出直すことは絶対にできない。
今日でなければ意味がない。
拳に力を入れて握りしめ、ドンドンと扉を叩く。
『五条先生っ…雫です。
話したいですっ…入れて下さい。』
重いシルバーの扉が、冷たく拒否するように立ちはだかる。
当たり前だ。
先生があんな花を持ってきてくれたのに私は…
なんて事を…
『…っ先生…中に入れて…お願い…』
涙で景色が滲む。
ガチャリ
「雫……まだいたの?もう遅いから戻りなさい。」
『先生っ…お願いです、話を聞いて…』
「…僕もう今日はクタクタなの。
明日にしてくれる?おやすみ…」
ドアを気怠く閉めようとする先生。
『…ぁっ…アングレカムっ……』
「…っ……」
『先生がさっきくれたお花…アングレカムっていう花なんですよね?花言葉は《祈り》……それから…』
『……《ずっと一緒にいたい》
先生…そう…思ってくれてるの…?私と一緒にいてくれるの?』
涙が零れ落ちたと同時に、先生の大きな体に包まれた。
「…驚いた。この短時間によく気付いたね。」
『野薔薇が…教えてくれたの…』
「そう…じゃあ雫はわかってて僕の所に来た。
それでいいんだね…?」
先生の体をぎゅっと抱きしめる。
『先生…先生が大好き。ずっと一緒にいて…』
目隠しを上に上げ、視線を合わせると先生の薄く形の良い唇に、そっと口づけた。
顔を離すと、驚いて目を見開く先生。
「ふっ…僕からきちんと言いたかったのに、雫があんな事言うからさ…機会逃しちゃったじゃない。」
『……ごめんなさい…だって先生が契約終了って…それに…今日綺麗な女の人と…ホテルに入って行くの…見たから…』
じわじわと目に涙が溜まり、鼻がツンとする。