第4章 アングレカム【五条悟・教師編】
『…野薔薇?』
電気をつけてドアの方に向かう。
『…はい』
「あれ、寝てたの?お疲れサマンサー。
もうご飯食べた?」
『……何ですか?』
「…え、機嫌悪いの?
見て見て、街でさ、可愛い花見つけたから買ってきたんだ。雫にぴったりでしょ。真っ白で可憐で。この形がまた独特で愛らしいな、って思って…」
『……先生、母が…退院することになって…
本当に色々ありがとうございました。
これでもう先生のお手伝いは…終わ…り?』
言わないで…
でも…言って…
「…そっか、退院おめでとう。
これで契約は終了だね。」
足が震える。
寒くて体が動かない。
「雫?」
『…たの。』
「え?」
『私…恵と付き合う事に決めたの。』
「………そう。」
『…っ先生の部屋に出入りしながら恵と付き合うのは悪いって思ってて。色々スッキリしてからと思ってたからいいタイミングかな、って。』
嘘つきな口が、ペラペラと言葉を発する。
「……そっか。
ごめん、雫。お母さんの退院のこと、知ってたんだ。僕とお母さん、LINE友達だからさ。」
『………』
「花…鉢植えだからここに置いていくね。」
先生はビニール袋から鉢を取り出し、そっと床に置いた。
「おやすみ」
『………』
先生が部屋から出ていくと、ヘナヘナと地面に座り込んだ。
『…ぅっ…うぅっ……』
やっぱりもう私は必要ないんだ。
お金なんて発生しなくても、先生のお手伝いがしたかった。
先生のそばに置いてほしかった。
けど無理だよね…
あんなに綺麗で大人な女性が側にいるんだから。
『ふっ…ぅっ……』
ゴンゴン
ドアを叩く大きな音。
『…開いてます。』
ガチャリ
「え…?何で泣いてるの?雫…」
『野薔薇……へへ、大丈夫だよ。』
「大丈夫じゃないでしょ…ご飯持ってきた。とりあえず中入るわよ?って…
可愛い花ね。どうしたの?」
『ちょっと……もらって…』
「あら、この花…あぁ、さては伏黒ね?」
『……何で?』
「私さ、花がわかる女はモテると思って、実は結構詳しいのよ。この花変わってるから覚えてる。花言葉は確か……」
野薔薇の言葉を聞いて部屋を飛び出した。
靴の踵を踏んだまま。
酷い顔で。