第4章 アングレカム【五条悟・教師編】
気づくとポロポロと涙が零れ落ちていた。
「ちょっ…どうしたの?
せっかくの美人が勿体ないよ。何か悩み?」
少し年上に見える、金髪にスーツ姿の男の人が声をかけてきた。見上げると、ピンクの外壁にピカピカと光る黄色い電球が綺麗に並ぶ、眩しいお店が目に入った。
『…ちょっとお金の事で…でも大丈夫ですから。』
これ以上は話してはいけない気がして、早足で通り過ぎようとすると
「え、お金で悩んでるの!?だったらウチで働くのが絶対いいって!頑張れば1日5万以上とか夢じゃないから。」
男の人はニコニコしながら肩に手をかけてきた。
『…っ…5万…?』
いけない、と思いつつ足を止め、男の人に聞いてしまった。
「うん、嘘じゃないよ。
頑張り次第でいくらでも稼げる。ちょっと男の相手して、楽して稼げるおいしい仕事だよ。」
男の人は口角を上げ、ペラペラと続ける。
『でも…ここ、大人のお店ですよね?私、高校生なので…』
「ははっ、年齢誤魔化して働いてる子なんていくらでもいるって。大丈夫、お姉さん綺麗だし、スタイルもメッチャいいし、すぐ客もつくと思うよ。」
『でも……』
1日5万も手に入ったらどんなにいいだろう。
治療費や薬代はおろか、お母さんが働かなくてもいい位になるかもしれない、という思いが迷いを生んだ。
高専はバイトをしてはいけない規則。
けど内緒で働けば…
「ふふ…面接だけでもしてく?行こうよ…」
私の肩を抱き、店の中へ引き入れようとしたその時…
「あっれー?雫じゃない。
どったの?こんな所で。
って……え……えぇっ……?!
ちょっとここ、大人のためのエッチなお店じゃない。
中に入ろうとしてるの?優等生の雫が?
ちょっと先生、ショックなんですけどー!」
キャッキャと脇を締め、騒ぎ立てながら一人の男性が近づいてきた。
『ごっ…五条先生…?!』
「は?何だセンコーかよ。変な格好。ほっとけって、この子は自分の意思で働…」
「オイ。とりあえずその汚ねぇ手、どけろ。」
「は…?」
先生が額にそっと手を近づけると、男の人は白目をむいて倒れてしまった。
『ちょっとっ…先生…何し…』
「大丈夫、気絶させただけじゃん。
何もしてないって。触ってもないし。逃げろー。」
先生に腕を引かれ、全速力で走った。