第4章 アングレカム【五条悟・教師編】
『お母さん、お花ここに置くね。
下着とか靴下は足りてる?
洗い物はその袋に入れてくれたら持って帰るよ。』
「ありがとう、雫。
ごめんね…今日もせっかくのお休みなのに。
お母さん、雫に迷惑かけてせつないよ…」
『…っ迷惑なわけないじゃん。
こういう時はお互い様だよ。気にしないでゆっくり休んで…早く良くなってよね。』
冷静に冷静に…
「ありがとう…
そういえば雫、先生から何かお話あった?
お母さんずっと眠っていて、まだ聞いてないのよ。」
『……ま…まだだよ。そろそろあるのかもね。
もうお母さん、最近張り切って働きすぎたんだよ。
もう年なんだから…気をつけなきゃダメだからね。』
顔…引きつってないかな。
一週間前、母が倒れたと高専に連絡が入り、すぐに駆けつけた。
内臓の数値で悪い所があって、検査を繰り返した結果…
高額な治療費、薬代がかかる病が見つかった。
とても私の貯金や、高専から支給される給料では賄えそうにない額だった。
母は一年前、父の浮気で家を出てパートを始めた為、離婚も成立していなければ父の扶養中でもある。色々な関係で父に連絡を取らなければならないけれど、母が拒否している為、先生からやんわりと私に話があった。
父には頼りたくない…
お金の事は心配しないように、と様々な制度、医療ローン等を勧められたけれど…制度は後からお金が返ってくるだけでそもそも先立つ物がない…
医療ローンなんて絶対にだめ。早く返そうと、また無理して働くに決まってる。
必死に策を探し、五条先生に給料の前借りができないか、上層部に掛け合ってもらったけれど…結果は難しいものだった。
何とか延ばしてもらっていたけれど、治療を始めるにあたってお金の事はどうしても母に伝えなければならないらしく、明日、先生の口からそれが告げられる事になっている。
駅までの道を、重い足取りで歩く。
『何で私は…高校生なんだろう…』
大人なら自分でローンを組めるのに…
大人ならお金を持っている友達に頼めるのに…
大人なら…
涙で視界がぼやける。
「おねーさん、ちょっとお話いいかな?
って…えっ…泣いてるの…?!」
『え………?』