第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
「ははっ、どうやろうねぇ?死んだ事ないから確かめようがないけどなぁ…でも実際、死んだ人間が夢に出てきた人が何人もおってねぇ。なーんとなし、私らもそれを信じて、毎日干潮になると渡っとるんやけどね。」
「おい、お前はすぐに観光に来とる衆らにペラペラ喋って…春にこん人らにヘブンロードを勧めたん、ワシや。諸々バレてもうたやんか。」
「えっ…!そうやったん⁉ごめんなぁ、堪忍な。今聞いたこと、忘れてな。全部おばあちゃんの妄想や。ヘブンロードは願い事が叶う、素敵な道やでぇ。」
「アホか。」
『ふふっ…夫婦漫才みたい。』
微笑む雫を見つめ、目を細める。
やっと笑った…
手を振りながら私達を見送る老夫婦に頭を下げながら、島が見える海岸まで進む。
「満潮ですね。次に道を渡れるのは確か、正午過ぎなはずです。」
『…………』
「夢で灰原に会ったんですか。」
『…っ…何で…』
「態度を見ていればわかります。何か…言っていましたか?」
『……………"生きて。七海と一緒に。約束だよ"って。』
「…灰原らしいですね。」
『建人……私達、生きてまた…ここに来よう。
何度でも…』
頬を伝う雫の涙を、人差し指の背で拭う。
「勿論。」
最後まで私達を心配した、心優しい仲間が最期に遺した言葉を2人で守ろうと誓い、しばらく海に浮かぶ小さな島を見つめた。
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何日も滞在したように感じる島。
決して近くないこの島に、次に来られるのはいつだろうかと、荷物を持ってフェリーに乗り込もうとしたその時、突然温かく強い風が吹いた。
「…っ……」
『建人?どうかした?』
「いえ…今…何か聞こえましたか?」
『え?人の声はたくさん聞こえるけど…どうしたの?何か聞こえたの?』
「……なんでもありません。」
"七海、雫を頼んだよ。"
私は人の溢れかえるフェリーの中で、雫の小さな手をそっと握った。
離れないように。
離さないように。
end.