第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
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「機嫌が悪いんですか?」
『別に…そんなことない…』
「何か気に障る事をしてしまったなら謝ります。話してください。」
朝食を終え、チェックアウトまでにもう1度だけヘブンロードの先の島を見に行きたいという雫に付き合い、2人で目的地まで歩いているのに、朝から、というか…起きてから雫の態度がかなり悪い。
せっかく想いが通じ合ったというのに…
『建人ってさ…高専に入ってから彼女いたことないよね…?』
「…何ですか急に。ないですが…」
『何か女の体に…慣れてたもん。』
むくれる雫を見て、深い溜息をつく。
「それはお互い様でしょう。雫だってかなり手慣れていたように思いましたが…」
『…っ…私は彼氏いたの知ってるでしょ…?』
「私も高専に入る前の事でまだ話していない事の一つや二つありますよ。」
『…っ……』
「…辞めませんか?こんな事で喧嘩をするのは無意味です。それよりも、私達のこれからを考えた方がよっぽどいい。」
『…ごめん。』
「いえ…」
嫉妬するあなたも嫌いではないですが…とは言わずにおこう。
ヘブンロードのすぐ近くに来た時、ふいに老夫婦から声をかけられた。
「おや、あんたら…しばらくぶりやなぁ。春にウチに泊まりに来とったやろ。えらい別嬪のお姉ちゃんと、背ぇの高い金髪の兄ちゃんと、黒髪の兄ちゃんの3人でよう目立ってたから覚えとるわ。今日は黒髪の兄ちゃんはおらんのかな?」
ニコニコと私達を指さしながら話すその人は、春に泊まった旅館のご主人だった。
『…えっと……』
返答に困る雫に代わって答える。
「今日は私達2人だけです。お二人は、ヘブンロードにお願い事をしに行かれるのですか?」
「願い事…?」
あぁ、と笑って奥さんが答える。
「願い事が叶う叶わない云々はねぇ、ここだけの話…町興しのために観光協会がつくったものなんよ。
昔っから伝わるヘブンロードの本当の意味はね…天までの道。つまり死後、天国に行くまでの道を表してるんよ。
ここを渡った人間で天国に行ける人は死んだ後、1番会いたい人に会うことができて、言い残した大事な事を伝えることができる、そんな風に言われてるんよ。」
『…っ…それ…本当ですか?』