第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
side 七海
俯く雫の横顔を見つめて口を開く。
「そんな風に思うわけないでしょう。」
『………』
「少なくとも雫に救われた人達は雫に感謝しているはずです。
呪術師になる動機なんて人それぞれ…
高専で雫が救った多くの命は、雫がいたから救われたんです。その事実に、動機は関係ありません。」
『………私ね、自分のことばかり考えて、仲間がどうなるかとか考えてなかった。仲間が…亡くなるなんて…それを受け入れなきゃいけない…なんて…』
「雫…」
震える雫の声を聞き、小さな手を握る。
『…け…健人まで…もし死んじゃったら…目の前からいなくなっちゃったら私…どうしたらいいかわからない…受け入れるなんてできないっ…だから私呪術師はもう…』
ポロポロと涙を流し、こちらを見つめる雫を、思わずそっと抱きしめた。
「雫の事が好きです。」
『…っ……』
「勿論死なないとは約束できません。
以前、願い事なんてないと言いましたが…
本当は"雫がずっと幸せであるように"とお願いしたんです。
けれどやっぱり…望みは自分自身で実現させるものだという思いは変わらないですから…」
「自分の手で雫を幸せにします。」
全く呆れる。
仲間が亡くなってからのタイミングでしか、想いを伝えることができなかった自分に。
「本当に呪術師を辞めるというなら止めません。雫の人生ですから。けどまだ揺らいでいるのなら、もう1度考えませんか?一緒に…」
潤んだ瞳でこちらを見つめ、コクンと頷いた雫の体を優しく抱きしめる。
公衆の面前で…と昔なら思ったかもしれませんが、行き交う人々の視線を感じても、恥ずかしさは微塵もなかった。
私は腕の中にいる雫の温かさにただただ安心して、強く抱きしめ続けた。