第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
ここは…どこだろう?
美しい花が咲き乱れ、見たこともない種類の蝶がヒラヒラと舞っている。
『綺麗……』
辺りを見渡すと、見慣れた人物がゆっくりとこちらに近づいてくる。
『…っ…雄…』
私の目の前に立つと、優しい笑顔でこちらを見つめる。
『雄…何だ…心配したよもう。ここ何処……』
雲が流れているのに風を感じない。太陽が見えるのに、暖かくも、寒くもない。音もない。
私はここが現実ではないことを、やっと理解した。
『ゆ…う…』
視界がぼやけて前がよく見えず、涙を拭う。
口を開かずに微笑む雄の言葉が、ゆっくりと頭の中に流れてくる。
"泣かないで、雫"
『…うっ…ぅっ…』
"ありがとう"
『…っ…それは私だよ。雄がいてくれたから私…頑張れた。』
にっこりと笑う雄。
"雫、幸せになって"
『…無理だよ…自分だけ幸せになんてなれない…』
首を振りながら手の甲で涙を拭う。
雄はゆっくりと私に近づき、真っ直ぐ目を見つめて頭に手を置いた。
"ーーーーー"
『…っ……』
"約束だからね"
雲が飛ぶように流れていき、突然強い風が草花を揺らした。
『…雄っ……』
視界には見慣れた天井が映る。
目の周りが熱く、耳に温かい水が入り込んでくる。
「気がついた…?」
『夏油先輩…』
「ショックだったよね。受け入れるのに…しばらく時間はかかるよ。今日はとにかくこのまま部屋で休むんだ。」
『夏油先輩…私……』
side 七海
「雫はどこですか。」
「守秘義務があると言っているだろう、七海。
アイツは大丈夫だ。しばらく休ませる。詮索するな。」
昨日、雫の様子を見に部屋に行くと、既に夏油さんしかいなかった。
施設かもしれないと思ったが、場所も教えてはもらえず、今どこにいるのかも勿論教えてはもらえない。
「何て言ってたんですか。それだけでも…」
「…七海。仲間が死んだんだ。すぐに気持ちの整理はつかないだろう。雫には時間が必要だ。」
死んだ仲間を見て倒れる程のショックを受けた人間を放っておいていいはずがない。悠長に構える先生達に苛立ちが増す。