第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
目を開くと…
体に重みを感じ、胸に柔らかいものも感じる。
「雫…」
『ごめん…建人…怪我してな…』
よく見ると、雫が私の上に覆いかぶさり、顔の距離は10センチ程になっていた。
『っ……』
人の顔の色が
こんなに急激に変わるのを
見たことがなかった。
出血するのではないかと思うくらい耳まで紅く染まった顔で私を見下ろす雫を見て、何かがプツンと切れた。
「雫…」
体を反転させ、体の上に乗っていた雫を優しく床に組み敷いた。
『け…んと……?』
私は瞳を潤ませる雫の唇を、そっと塞いだ。
side 雫
建人からいつも香る柑橘系の大人びた香りがすごく近くに感じられ、頭がクラクラとしてきた。
サラサラとした金髪が瞼にかかり、とっさに目を瞑る。
口内に感じる柔らかな感触に驚いて目を開けると、切れ長の、色気を含んだ目と視線がぶつかる。
『んっ…けん…と…』
「…っ…」
目を大きく見開いた建人が急いで私から離れると、私達を繋いでいた銀糸がツウ…と下唇を濡らした。
「雫…すまない。忘れてください…」
建人はバタバタと音をたて、私の部屋をあとにした。
今………何が起きたんだろう…?
天井を見上げながら、そっと唇に触れると、しばらく動くことができなかった。
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side 七海
雫が心配で部屋に行ったのに、あろうことかキスをするなんて…
しかも雫は仲間の恋人だ。
「私は一体…何をしているんだ。」
部屋の扉に背を預けると、そのままズルズルとしゃがみ込んだ。
それから数日が経ち、灰原が私に告げた言葉に愕然とする。
「七海…僕、雫と別れたよ。」
「…は?」
「友達に戻りたいって。」
「…なぜ…?」
「言わないからわからない…でもいいんだ。どんな形でも、僕は雫の事が守りたいだけだから。」
学食で家入さんと夏油さんと昼食をとる雫を見つけ、すぐさま声をかける。
「雫、話があります。ちょっと来て下さい。」
『…今まだ食べてる所…後でもいい?』
「いいえ、今すぐ…」
私は強引に雫の腕を引くと、外に連れ出した。