第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
「…七海、雫と3人で宿泊の任務って、初めてだね。」
買っておいたコーラではなく、先程急須に入れたお茶を選んで口に流し込む灰原を見て、今から始まる話が軽いものではない事がわかる。
「特に意識しなかったが、言われてみれば…そうだな。」
「女の子が雫一人っていうのも初めてでしょ。」
「…灰原。」
「遠方任務の時ってさ、補助監督さんが厳重なセキュリティの、きちんとしたホテルを取ってくれるのに、今日は旅館に泊まってるよね。前に雫と宿泊した時も、泊まったのは旅館じゃなかった?」
前回は1ヶ月程前だったでしょうか。1年生の女子、雫、私の3人で宿泊したのも確かに旅館でしたが…ホテルが取れなかったのだろう、くらいにしか感じていませんでした。
「七海は…雫のご両親が亡くなってるの、知ってるよね。」
「あぁ。1年の…6月くらいだったか?各々、長い休みをずらして取るように先生に言われた時に…」
"私、もう両親いないんだよ。帰る所ないから、休みはいらないかな。"
あの時は確か、笑ってそんな風に言っていて、両親を亡くしているのか、ぐらいにしか思っていなかった。
「…殺されたんだ。呪詛師に。雫が6歳の時。」
「…っ……」
掠れる声を誤魔化すように、再び湯呑みに口をつける灰原。
「雫の家、凄く裕福だったみたいでさ、大きい家に住んでいたんだって。夜中に呪詛師が侵入して、窓だったご両親を攻撃して…金品を盗んで逃げた。
セキュリティがすぐに作動したみたいだけど、警察が着いた時にはもう、ご両親は…」
全く知らなかった話に息が詰まる。
「その時のショックで…洋室には寝られないんだ、雫。和室もね、慣れた場所じゃない所や、1人だけだと、怖くて震えが起きちゃうことがあるみたいで。」
「…どうしてそれを…」
「言ってくれなかったのかって?それは…」
「…私が信用できる人間ではなかった…ってことだな。」
「七海…」
それから灰原はゆっくりと、雫の過去を話してくれた。