第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
眉間に皺を寄せ、フイっと横を向く雫。
拗ねたのでしょうか。
「雫。」
もう1度名前を呼ぶと、ゆっくりとこちらを向いた。
『わかっ…た…』
「…っ…」
何…だ…?今の…
雫はフラフラと部屋に戻り、扉を閉めた。
「雫っ…!七海、先お風呂行って。部屋には後で戻るから。」
灰原が焦った様子で雫の後を追い、部屋に入ると強く扉を閉めた。
一人廊下に残され、その場に呆然と佇む。
今まで1度も見たことのなかった雫の表情。
感情をまるで感じないその顔は、まるで能面のようだった…
「………」
何かまずい対応をしたのでしょうか。
雫のあの顔…灰原の焦った態度…
廊下に立っていても仕方がないので、とりあえず言われた通り風呂を済ませ、部屋に戻り本を読みながら灰原を待った。
けれど…
8時を過ぎても、9時を過ぎても戻らない灰原が流石に気になり、雫の部屋へ向かおうとスリッパを履く。
いや。気になっているのは灰原ではないことは、自分で十分わかっている。
風呂の中で先程の事を色々と考えた…
私の言葉か、態度の中に、雫にとって何か引っかかるものがあった…
そう考えなければあの表情の説明がつきません。
だとしたらきちんと事情を聞いて…謝らなければなりませんね。
コンコン、とノックをすると、暫くして暗い部屋から灰原が顔を出す。
「雫…寝たよ。僕もすぐ戻る。
七海、部屋に戻ったら…少し話せる?」
「勿論。」
先に部屋に戻り灰原を待つと、程なくして戻ってきた。
「お風呂は雫の部屋で入ったよ。って一緒にって意味じゃないからね…⁉」
「…灰原。私は雫を傷つけたんだな?さっきのような雫の顔を今まで1度も見たことがない。私の知らない事があるなら…話してほしい。」
「………」
「頼む。」
雫にあんな顔はもう2度と、させたくない。
灰原は広縁にある小さなテーブルを挟んで私と向き合うように椅子に座ると、ゆっくりと…口を開いた。