第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
宿に戻り、食事を取ろうと食堂に向かうと大学生くらいの男性2人が目に入った。
『こんばんはー。』
誰にでも別け隔てのない態度をとる雫は、2人に笑顔で挨拶し、席についた。
案の定、2人は顔を赤らめてコソコソと何か喋っては小さく笑い、雫を見つめている。
全く…
感心しませんね。誰にでも愛想がいいというのも。
危機感というものをまるで感じない。
「雫…夜蛾先生も言っていたと思いますが。
あまり誰彼構わず挨拶しないことです。ここならそうですね…宿の主人くらいでいいでしょう。」
雫を見ずに味噌汁をすすり、小鉢に箸をのばす。
極力、変な虫を寄せつけたくない。
灰原だってそうでしょう。
「えー。挨拶くらい、いいじゃない。僕は雫のそういう所が好きなんだから。」
『ありがとう。だって挨拶は人間としての基本だもんね。建人は何か…何て言うんだろう、心配症親父…?みたい。』
「ごほっ…親父…?」
焼き魚が喉に詰まりそうになる。
はぁ…お爺さんに心配症親父。
もう何を言ってもこの2人に私の意図は伝わりません。
まぁいい…
私がきちんとしていればいいだけの話ですから。
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夕食の後少し部屋で休み、灰原と風呂場に向かおうと部屋を出ると、タオルを抱えて風呂場に向かう雫と一緒になった。
『ねぇ…』
見るからに不機嫌そうな態度。
そうでしょうね…
『暇なんだけどー!私部屋で1人きりだよ…!?お風呂の後遊びに行ってもいい?』
「ダメに決まっているでしょう…
明日は早い新幹線で東京に戻ります。
新幹線の駅までだって船、電車、乗り継ぎも沢山あるんですから。」
「ちょっとくらい、いいじゃん七海。」
「ダメです。あなた方はどうせ寝ているだけだからいいですが、遊んでいて私が寝坊したり、うたた寝して乗り過ごしたりしたらどうするんですか?自分達で何とかできるということならどうぞお好きに。」
「七海……」
「雫。」
『……何?』
「私達はここへ修学旅行で来たんじゃない。
任務で来たんです。私の言っている意味はわかりますね?」
少し強く言い過ぎましたか。
いや、でももう子供ではないんですから。