第3章 ヘブンロード【七海建人・高専編】
いつだったのでしょう。
君の笑顔が好きだと気づいたのは。
『建人っ…!はやくしないとっ。急いでー!』
私を呼ぶその高く美しい声も、私を映すその大きな瞳も、自分だけのものであったならどんなに幸せかと、そんな風に思い始めたのはいつからだったのか…
「雫、危ないですよ、そんなに走ったら。ほら、前を見て……って…」
後ろを振り向きながら走ったせいで、足がもつれて倒れ込む雫。
ほら…言わんこっちゃない。
それでも、私が急いで助けに行く必要はない。
「もう、何やってるの雫。ちゃんと前見て走らなきゃ危ないよ。」
雫に手を差し出し、体を支えるお日様のような笑顔。
『雄、ありがとう。だって建人がシャキシャキ歩かないんだもん。お爺さんみたいにのんびりしてるんだもん。』
誰がお爺さんですか…
そりゃそうでしょう。任務で疲れているのに宿の主人に教えてもらったヘブンロードを歩きたいって…子供じゃあるまいし。
『わぁっ…!まだ道が見える!歩けるよ、ちょうど干潮だったんだ。ラッキー!ねぇ、2人は何をお願いするか決まった?』
「んー、僕は……もっと強くなれますように、かな。」
『ははっ、何それ。他力本願。強さは自分で鍛えて手に入れるものでしょ。』
胸に軽くグーパンチを受ける灰原。
「何だよっ、じゃあ雫は何をお願いするの?」
『んー……言わないっ。言ったら効果なくなるんだから。』
「はぁ⁉ちょっとそれ言わなかったじゃん。」
『ははっ、これで雄が強さを手に入れることはできなくなっちゃったね。』
「何だよそれー。じゃあ僕、雫とずっと一緒にいられますように、にしようかな。」
『だーかーら、言ったら意味ないでしょ』
「あ、そっか。」
『建人は?何か願い事ないの?』
「ないですね。望みは自分自身で実現させるものですから。」
『現実的すぎてそれもどうなのー⁉』
「そうだよ七海、何かあるでしょ。」
ないと言ったら嘘になりますが…
それを私の口から言うことは絶対にありません。
ヘブンロードを渡りきった先の島にある、小さな祠に向かって手を合わせ、目を瞑る雫の横顔を見ながら思った。
これから先も、君がずっと…幸せでありますように。