第1章 愛しい君【夏油傑・高専編】
わかってる。自分でも、らしくないって。
ずっと冷静だったのに、あの子の言葉で頭に血が上ってしまった。
傑を悪く言われたらから…なんて。
それはただの建前で。
『傑の彼女か?って…聞かれたの。』
「え?」
『傑、あの子と会った事あるでしょ?多分あの子…傑の事が好きなんだよ。』
大きく目を見開いてポカンとする傑。
あ、と何かを思い出したかのように口を開け、こめかみを指で掻く。
「あー……あの子か。以前悟と一緒によく行っていたケーキ屋で、店員さんに声をかけられたんだ。突然付き合ってくれ、って言われて彼女がいるから、と断ったんだけど。それ以降は全く行かなくなっていたから気づかなかった…え、もしかしてそれで…?」
『………』
相変わらず自覚ないな、と思いながらずんずんと前を歩く。
性格はともかく、モデル並の容姿やスタイルのあの子を忘れるなんて…
傑は任務先でも、しょっ中女の子から声をかけられては断っている。
こんなにモテる傑の彼女が何故私なのか…
自分自身が一番疑問に感じている。
あの子が言ったことがその通りすぎて、思わず嫌なことを言ってしまった。
自信のないウジウジとした性格。どこにでもいる普通の顔。スタイルがいいとは言えない体。
半年前に傑に告白された時は、嬉しいというより、なぜ?という疑問の方が大きかった。優しくて頼りがいがあって、誠実で、先を見通す力があって。その上強くて顔もカッコよくて責任感もあって…
100点満点どころか200点満点の傑が彼氏である事が信じられない事なのだから、こんな目に遭うのはむしろ普通の事のように思えた。
鬱陶しいと思われたくなくて…どうして私が好きなのか、どこが好きかなんて、聞いたことがなかった。
たまたま身近にいたから…?
硝子は高嶺の花だから…?
傑は私と付き合っていて、もっと素敵な子がいないかと考えることはないのかな…?
私…傑の隣にいて…いいのかな……?
「雫?」
『…っ………』
傑に顔を覗かれると同時に、大きな涙の粒がぽろぽろと頬を伝った。
「っ…雫……ごめん。私のせいだね。私のせいで嫌な気持ちにさせて、顔に傷までつけさせてしまって…何かお詫びさせてくれないかい?行きたい所や欲しい物、何でも…」
大きな体で包み込み、頭を支える傑の胸を、そっと押した。