第1章 愛しい君【夏油傑・高専編】
「ねぇ?あなたって、傑君の彼女?」
『…え?』
ファストフード店のトイレで手を洗っていると、ふいに耳に入る高く可愛らしい声。
目の前の鏡を覗くと、髪の長い綺麗な女の子が腕を組み、壁に寄りかかりながらこちらを見ているのが写った。
『あの…』
振り返って今度はマジマジと彼女を見てみる。1度見たら忘れないくらいの美人さん。足が長くて、出るところはしっかりと出ていてモデルのよう。
年は…同い年くらいかな?
「質問に答えてもらってもいい?あなた、傑君の何?」
『傑は同じ高校の…同級生です…』
「彼女ではないのね?」
『…彼女…です。一応…』
「……へぇ。」
口角を上げながら、こちらをじっと見つめる大きな瞳。
「彼女なんだ、あなたが。」
殺気立つ視線。怒りを含む声。
『あの…あなたは傑の友達…ですか?』
傑は彼女を知っているのかが知りたくて、遠慮がちに聞いてみる。
「…っ別に、あなたに教える必要なんてないでしょ?」
ムッとしたその子は私の前に立ちはだかった。
「それで、何であなたが傑君の彼女なの?
どんな所がいいのかしら、あなたの。
そのオドオドした弱そうな所?10人並な顔?何の凹凸もない子供みたいな体?何か…ふふっ、傑君て趣味悪いのね。
全然興味なくなっちゃった。」
クスクスと笑い、誂うような視線を浴びせて捲し立てるように喋る女の子。
あぁ、そうか。この子はきっと…
女の子の目を真っ直ぐに見つめながら言った。
『…安心しました。あなたみたいな子に靡かない時点で、傑の趣味は正常みたい。』
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隣を歩く傑は心配そうにこちらを見ている。
「…で、いい加減話して貰えるかい?理由もなく雫が売られたケンカを買うとは思えない。トイレから戻って来たかと思ったら女の子を突き出す、顔は傷だらけ…何も話さないし何も食べない。何があったの?」
ほっぺたや目の上、首につけられた引っ掻き傷がピリピリと痛む。
『…何もないよ。女の子が急に掴みかかってきて、引っ掻かれたから押さえつけただけ…』
相手は非術師で、しかも女の子。故に手は出していない。戦闘モードの身のこなしで怪訝に思って欲しくなくて、何箇所か引っ掻かれておいて、きちんと腕を縛ってお店に突き出した。