第2章 青く澄んだ空【五条悟・高専編】
side 雫
悟に先に行ってもらい、後を追いかける。
大丈夫。
傑はきっと、笑顔でこう言う。
何だい?何のことだい?って。
何かの間違いだよ、私がそんなことするわけないじゃないか、って困ったように眉を下げて言うに決まってる。
じゃあ…どうして逃げていたの…?
どうして村に、傑の残穢が残っていたの…?
不安を掻き消すように、ブンブンと頭を振った。
人混みの先に悟を見つけ、その前にいたのは…
『っ傑……』
「……雫?」
こちらを見つめる傑は少し痩せたように見え、その姿に不安が高まる。
傑は一瞬目を大きく見開いたけれど、すぐにいつもの表情に戻った。
「どうして来たの?」
『傑…嘘…だよね……?』
体も、口から出る言葉も震え、上手く話せない。
「嘘って?」
『人…を…殺したなんて嘘だよね…!?』
すれ違う数人がこちらを振り返る。
「 雫…ここじゃ……」
肩に触れる悟の手を振り払った。
「嘘じゃないよ。家族の事も。私が殺したんだ。」
『…っ………』
傑の言葉に、体中が熱くなり、血液が下半身に落ちていくように感じた。急激に寒くなって、膝がガクガクと震えだした。
『う…そだよ。そんなわけない……』
視界がぼやけ、重い涙の粒が落ちてはまたぼやけ、また粒が頬を伝っていく。
「すべきこと、生き方が決まったんだ。
雫、もう君とは一緒にいられない。」
そう言い放ち、傑は前を向いて歩き出そうとした。
『う……嘘つきっ。大嘘つき……
ずっと一緒って言った。ずっと守るって言った。
ずっと私を好きだって…
私のこと置いていくの…?ひどい…酷いよ傑っ……』
涙腺が決壊し、子供のように大きな声で泣きながら、押し殺していた感情をぶつけた。
「…君が好きだから、君を守るために離れるんだ。
今の君が私と一緒にいたら、辛いことや悲しいことがきっとある。汚いもの、見なくてもいいものを、たくさん見なくてはいけないよ。」
ふっ、と目を細めて笑う傑は、私の知っている優しい表情の傑だった。
少し掠れた声が続く。
「私が歩む修羅の道を、君に歩ませたくはないんだ。」
『…す……』
「さよなら、雫」
『…傑っ…』