第5章 トライアングルのち…【虎杖悠仁&伏黒恵・高専編】
「いや……俺が悪いな、全部…」
やる事為す事、全て空回って全然意味がない。
『ごめん…恵は悪くないよ。何か今日はホント…何も入ってこなくて…
ラーメンの味も、映画も…
せっかく恵が気を遣ってくれたのに…』
ポロポロと溢れる涙を拭う雫の姿を、今日何度見ただろうか。
少しだけ、元気になったはずだった。
笑顔が見られて安心したはずだった。
そう、虎杖の姿を見るまでは…
俺達2人は、どうにもできない、やり場のない気持ちを抱えたまま、街の喧騒の中立ち尽くした。
「帰ろう…」
俺は左手の拳を握ると、雫の背中を支え、歩き出した。
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「大丈夫か…?」
『うん、少しスッキリした…』
赤い目をした雫を部屋の前まで送り届けると、優しく抱きしめ、額に口付けた。
『…っ……』
「ちょっとずつでいいから…元気出せ。
俺ができる事は何でもしてやる。
だから…泣くな。」
『うん……ありがとう。』
無理して笑顔をつくり、中に入って行った雫の部屋の扉をしばらく見つめ、俺は重い足取りのまま部屋に戻った。
side 雫
帰りのバスの中で、スマホにきたメッセージを開いた。
"部屋の机の下に、雫の学生証があったよ。気付かなくてごめんな。もう帰ってる?持って行こうか?"
悠仁からのメッセージだった。
優しい文面に、また視界がぼやけてくる。
"連絡ありがとう。まだ帰宅中だから、明日学校でください。おやすみ。"
直ぐにきた返事に、複雑な気持ちが増す。
"ちょっと話したい。帰宅したらまた連絡して。"
話したい事…
有り得ないのに少し期待してしまう自分が悲しい。
けれど今日はもう、色々疲れてしまったから、寝てしまった事にしよう…
悪い話だった場合の傷つく覚悟は、もうない。
スマホをカバンにしまい、外の景色をぼんやりと眺めた。
お風呂を済ませ、寝る支度をしていると、ドアを叩く音がして、ビクリと体が跳ねた。
「雫ごめん、俺。起きてたら開けて。」
気を遣ったのか最大限声を張った小声だ。
『悠仁…?』
明日でいいと言ったのに…
目だってまだ少し腫れている。
会いたくないけれど、せっかく来てくれたのに帰すわけにもいかない…