第1章 前編
任務上がりには商店街に寄って食材を買い、自宅に戻っては子犬の世話をする。一緒に食事を取り、散歩に連れ出す。入浴を済ませた後は、共に眠ることもあった。
何故かと言うと、ヤマトが夜眠ろうとすると、人恋しいのか子犬が布団に潜り込んでくるからだった。
最初こそ用意してやった小さな寝床に戻していたが、またすぐに寄ってくるため、最後はヤマトも子犬の好きなようにさせた。
*
そんな生活が三日ほど続いたある日、ヤマトはカカシと会った。
「カカシ先輩」
「ん?ヤマトじゃないの。どうかした?」
アカデミー内にある、上忍専用の待機所にカカシはいた。備え付けのソファーにゆったりと座り、本に目を落としている。
「どうかした?じゃありませんよ。先輩、子犬のこと忘れてないですよね」
向かい側のソファーに腰を下ろしながらヤマトが言うと、カカシは本から目を離し顔を上げた。片目を細めて、朗らかに笑う。
「ああ、悪い悪い。そうだったな」
その言葉に軽く溜息をつくヤマトを見ながら、カカシは読みかけの本を閉じた。そして、子犬について得た情報があると、のんびりと話し出した。
「実はな。あれからすぐ犬塚家に聞いてみたんだが…どうも子犬を探してるって家は見当たらないらしい」
犬塚家は、木ノ葉で古くから忍犬を使った忍術を扱う一族で、この近辺に住む忍犬遣いたちとの交流も深かった。カカシもその一人だ。
「そうなんですか。じゃあ、あの子犬は捨て犬なんでしょうか……」
「俺はあり得ないと思ってたけど、どうもそうらしいな」