• テキストサイズ

迷い犬

第1章 前編


「ただいま」

玄関扉を開けて、ヤマトは誰に言うともなくそう言った。独り身のため、普段であれば返答はない。けれど、今日はそれに応えるように居間の方から子犬の鳴き声が聞こえた。何となく気持ちが和む。

「ワン!」

「元気にしてたかい?腹減っただろう」

柵を覗き込むと、子犬がちぎれんばかりにしっぽを振っている。つぶらな瞳で自分の顔をじっと見つめてくる姿に、ヤマトは思わず頬を緩ませた。

抱き上げて柵から出してやってから、ヤマトは子犬の餌と、自分の夕飯の準備を始めた。ベストを脱いで腕まくりをする。

(自炊なんて、久しぶりだな)

米を炊く準備をして、購入した野菜や肉を取り出し、包丁で刻む。それなりに体が覚えていて、調理に手間取ることはあまりなかった。一人暮らしが長いせいか、自炊せざるを得ない時期もあったからだ。

炊きあがったご飯と一緒に、刻んだ肉、野菜類を軽く煮る。それを子犬の餌として用意した。自分の夕食は、豚汁と焼き魚だ。折角なのでと、青菜の和え物も添えた。

なかなか満足のいく献立になったなと、一人悦に入る。

居間にある座卓に出来上がった料理を並べ、近くに子犬の餌鉢も置いてやった。

「おいで」

そう呼ぶと、軽くしっぽを振りながら子犬が近づいてきた。餌鉢の前にちょこんと座り、大人しく待っている。食べていいよと勧めてやると、子犬は旨そうに食べ出した。

(しつけが出来てるみたいだな。やっぱり飼い犬なんだろうか?)

そんなことを考えながら、ヤマトは子犬の様子をしばらく見ていた。そして、自分の食事にゆっくりと手を付けた。
/ 46ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp