第1章 前編
「ごめんよ。ちゃんとした肉は、また明日食べさせてあげるからさ」
改めてみると、自分の家の食材の買い置きはひどく心許ないなとヤマトは思い、先ほど確認した戸棚をもう一度開く。奥まで覗いても、内部には数個乾物の袋が入っているばかりで、隙間の多い棚を見ながら、ヤマトは溜息をついた。
振り返ると子犬がお座りをして、ヤマトをじっと見ていた。近くに座り込み、子犬の頭を撫でてやる。
「食べていいよ。君のために用意したんだ」
そう言うと、子犬は盛り付けたご飯を旨そうに食べだした。
一心に食べる姿を見て、ヤマトは頬を緩める。
「そうか。君、米が好きなんだね」
何となくそんな気がして、ヤマトは子犬が食べ終わるまで、その様子を目を細めて見つめた。
*
翌日。
任務を終えた帰り際、ヤマトは里にある図書処に立ち寄った。
犬の飼い方などという本数冊を手に取り、閲覧席に座る。一時的に預かっていることもあり、体調を崩したりしたら問題だ。本来の飼い主がいたら、心配をかけてしまう。そんな理由から、念のため本に目を通してみる。
子犬は自宅に置いてきた。特に危ないものはないはずだが、どこかにぶつかったり、部屋を引っ掻き回されても困るので、木製の柵を作ってきた。その中に水や餌鉢、トイレ替わりの砂場を設置してある。
(こういうときのための忍術じゃないんだけどね)
柵や砂を入れてある器。いくつかの手作りの品を思い出して、ヤマトは一人苦笑いを浮かべた。
自分の操る忍術は汎用性が高く、こうしたとき妙に便利だと感じる。木遁秘術という、樹木を生み出す忍術を使うヤマトは、木製の事物を作るのもお手の物なのだ。
数冊の本を読み、基本的な情報を得る。
一時間ほどしてから、ヤマトは図書処を後にした。
日が沈む頃、木ノ葉茶通り商店街に寄り、肉や野菜、牛乳などを買う。
(帰ったら、少し外に出してやらないとな)
そんなことを考えながら、家路に着いた。