第1章 前編
子犬を抱きかかえたまま、ヤマトはナルト達と別れて自宅へ戻った。
「まずは、君の食事を用意しないとね」
台所へ直行して、あまり充実していない食器棚から、大きめの鉢を二つ取り出して、餌鉢と水飲み用の鉢にすることにした。
とりあえず米を取り出して炊く準備をする。炊きあがるまでしばらく時間がかかるため、何か買い置きがないかと、台所のあちこちに視線を向けた。
冷蔵庫、机の上、食器棚、そして他にある戸棚などを開いてみる。床に下ろした子犬が、ヤマトの顔を見上げて小さくしっぽを振っていた。
ヤマトは、元々暗部というこの里の特殊部隊に所属していた。同じく暗部出身だったカカシに続いて、暗部の任務から、正規部隊の任務を請け負うことが、現在は多くなっている。その頃であれば、まだ日が落ちて間もないこんな時間に、自宅にいるのは珍しいことだった。
暗部はこの里の長、火影の直轄部隊で、任務は期間や時間帯を問わない厳しいものばかりだ。家があっても眠るだけに帰るということもざらで、何日も家を空けることは日常茶飯事だった。
そのため、自宅にはそれほど食材は保管しておらず、子犬に与えられるようなものはほとんどなかった。長年の習慣から、保管している食材の中心は乾物だ。
ほんの数年前は、半月に一度、また数か月は自宅に戻れないという日々が続いていたのだ。そのような生活もあり、たまに自炊することがあっても、大概は外食で済ませている。肉や魚などの傷みやすい食材は置いていない。
「うーん。干し肉とかあったかな…」
任務の携帯食にと持って行った記憶が微かにあり、戸棚の奥をガサゴソと探ってみた。だが、出てきたのはナッツ類と海苔の袋だけ。
「さすがにないか。あれを持って行ったのは、随分と前だったし」
ぶつぶつと独り言を言いながら、ふうと息を吐いていると、米の炊きあがるいい匂いがしてきた。炊きあがったご飯を鉢によそい、ヤマトはその上に鰹節をかけてみた。
いわゆる「猫まんま」というやつだ。
団扇で仰いで少し冷ましてやり、それを台所の床に置いた。水も隣に添えてやる。準備が整うと、子犬が餌鉢の近くに寄ってきた。