第1章 前編
すぐに決まらない行先に業を煮やしたナルトが、不意にガッと子犬を掴んだ。
「じゃあ、じゃあ。俺が…」
「お前はダーメ」
ナルトが意を決して言った言葉は、カカシに遮られた。
「ええ!何でだよ、カカシ先生」
「お前は自分の健康管理で手一杯でしょ。気が付かないで消費期限切れの牛乳とかやりそうだし、却下」
「う、それは…昔の話だってばよ」
ナルトが名残惜しそうに子犬から手を離した。解放された子犬を優しくひと撫でして、サクラが困ったように溜息をつく。
「私でもいいんですけど、親に確認してみないとなんとも言えなくて…」
「そうか、サクラは無理なんだね。それなら仕方ないな。僕が預かるよ」
サクラは両親と同居している。家族と住む者では今すぐに判断はできないだろうと、ヤマトは子犬を預かることにした。サイも申し出てくれたが、結局は一番懐いているようにみえるヤマトに決まった。
「じゃあ、しばらく頼むよ。俺は飼い主を探してみるからさ。犬塚家に聞いたら一番早いだろう」
「先輩、よろしくお願いします。僕は家を空けることが多いんで、ずっと世話出来ないかもしれませんし」
「わかってるよ。ま、とりあえずそう言うことで」
ヤマトが子犬を抱きかかえて立ち上がると、ナルトやサクラも続いた。
「良かった。そのまま置いていくなんて、可哀そうだったし」
サクラがほっとしたように呟いた。ナルトもうんうんと頷いている。子犬は二人の方に顔を向けて、「ワン」と答えた。
「はは。こいつ、意外と人の言葉が分かるのかもね」
その様子を見て、カカシが目元を和らげる。子犬の顔を覗きこみ、彼はもう一度その頭をそっと撫でた。