第2章 後編
それから半年ほどして、ヤマトが上忍待機所を訪れると、カカシがソファーにゆったりと座っていた。室内に入ってきたヤマトを見て、意外そうな顔をしている。
「何ですか?僕の顔に何かついてます?」
怪訝な表情を浮かべて、ヤマトは向かい側のソファーに腰かけた。
「思ったより気落ちしてないな」
「気落ちって…何のことですか?」
「何ってお前…子犬を里親に渡した後、随分と暗かったじゃないの」
「…え?」
「事情を知らない奴らがさ、彼女にでも振られたんじゃないかって噂してたよ」
手元の本に目を落としたカカシが、サラッとそう答えた。
「ちょっと、先輩。それ、説明してくれたんでしょうね」
「いんや、面白いから適当に流しておいたよ」
「止めて下さいよ!彼女もいないのに…」
焦ってヤマトがそう言うと、カカシは「そうなの?」とまた顔を上げた。
「カスミは?」
「へ?」
「何か、頻繁に彼女と一緒にいるところを見るんだけど」
「それは…」
*
子犬がいなくなってから、変わったことと言えば、代わりにカスミがヤマトの家を出入りするようになったことだった。
ある日、任務を終えたカスミを見かけて声を掛けると、「空腹で死にそうです」と泣きついてきた彼女に、ヤマトが一度食事を振舞ったのだ。
独り身の家に、若い女性を招くのもどうかと思ったが、カスミは空腹に負けて、ヤマトについてきた。しばらく続いている自炊の腕を披露すると、彼女の口に合ったのか、喜んで食べていた。
以来、任務後に出くわすと、カスミはふらふらとヤマトの家を訪れて、食事を共にするのだ。