第2章 後編
「ああ、美味しかった!テンゾウさん、ご馳走様です」
「はい、お粗末様…って。カスミ、君ね。一体いつまでいるつもりなんだい?」
「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。食器を片付けたら帰りますから」
食べ終えた食器を手慣れた様子で台所に運び、カスミは洗い始めた。ヤマトは溜息をついて、自分の食器を運んで彼女の隣に立つ。
「まったく…僕の家は、君の食堂じゃないよ」
ヤマトがシンクに置いた食器を、カスミが手に取って次々と洗っていく。
「まあまあ。今度は私がご馳走しますから」
「君の得意料理、親子丼だけだろ」
「いいじゃないですか。美味しいんだから。それとも、猫まんまにします?」
「いいよ、親子丼で…。今時猫まんまが好きな人なんて、君ぐらいだよ」
炊き立てのご飯に、鰹節をかけて醤油を垂らしたもの。
カスミは意外にもその食べ方を好んでしていた。他のおかずを食べた後で、最後に食べるのだ。
――けれど。
楽しそうに食器を洗うカスミを見ながら、ヤマトはあることを思い出していた。
(そう言えば、あの子犬も…)
彼女との再会のきっかけとなった、迷い犬も米が好きだった。その毛色も人懐っこい様子も少しだけ彼女と似ている。
俯いて考え込んでいるヤマトを、カスミが見上げた。
「どうしたんですか?テンゾウさん」
物思いから覚めて、カスミを見つめるヤマトの顔は綻んでいた。
「いや…前預かってた子犬のことを思い出していてね」
「私が変化した子犬と似てたって子のことですか?」
「ああ。あの子犬もね…」
何となく楽しい心持ちになって、好奇心たっぷりの目でヤマトを見上げるカスミにそのことを話した。
子犬と過ごした短い日々のこと。遠い昔のように思える。