第2章 後編
「ところで君さ、暗部に戻りたいと思ってる?」
唐突に出た真面目な話題に、カスミの顔から笑いが消える。
「それは…」
「今の居場所も悪くないと思ってるなら、僕は何も言わないつもりだったけど。君はそれじゃ、物足りないんじゃないか?」
ふと思いついたことを指摘すると、カスミは真剣な眼差しでヤマトを見上げた。
「ええ。下忍の任務も大切だとは思います。班の皆もいい子ばかりだし…。一瞬このままでもいいかと考えたこともあるけど…でも」
「私は、綱手様の一番傍で役に立ちたい」
袋を持つ手をぐっと握り、カスミはきっぱりと言った。
「それは、君の本心かい?」
「はい」
立ち止まり向かい合う。真摯な眼差しに彼女の本気が窺えた。
「そうか。じゃあ、僕が綱手様に口添えをするよ。いずれ相談に行くんだろう?」
「え?…ええ。しばらく任務をこなしたら、相談に行くつもりでした。綱手様にご迷惑をかけるつもりはなかったから」
先の任務の失態を思い出したのか、カスミは両手をだらりと下ろしてうなだれている。ヤマトはふっと笑った。
「君のことだ。どうしてそうなったのか、綱手様本人には、本当の理由を話してないんだろ?」
ヤマトがそう言うと、カスミは顔を上げた。驚きで目を丸くしている。
「どうしてそれを…」
「何となくね」
煙に巻いて、大事なことははぐらかしてしまう。そんなことが多かったと、ヤマトはカスミとの日々を振り返った。けれど、それがただの照れ隠しなのではないかと気づいたのだ。
穴が開くほど見つめられて、ヤマトはさすがに居心地が悪くなり、ごほんと一つ咳払いをした。我に返ったカスミが眉を下げた。泣き笑いのような表情をしている。
「テンゾウさんのそういうところ…やっぱり好きだなぁ」
「ええ!?何でそうなるかな」
ヤマトは彼女の何気ない囁きに面食らった。それは本心なのか、それともお世辞なのかと、動揺してしまう。
「…まあ、うん。そうだね。とりあえず褒め言葉として受け取っておくよ」
「ふふ。相談の際には、よろしくお願いします!」
途端に満面の笑みになったカスミを横目で見て、ヤマトは大きく息をついた。