第2章 後編
カスミはぽかんとした顔で、駆けていく少年の後ろ姿を見送っていた。そっと袋を開き、もう一度中身を確認する。それから不思議そうにぽつりと呟いた。
「どうしたんだろ?一本でいいって言ったのに…」
「カスミ。君さ、結構モテるんだね」
呆れたようにヤマトが言うと、彼女は驚いて振り向いた。
「え?何でそうなるんですか?」
「僕、あの子にライバル視されてる感じだったけど?君の話、あんまり信じてないみたいだったよ」
「そんな、まさか!」
「あんな曖昧な言い方はどうかと思うよ。子供相手に感心しないな」
「あれは、その…。ごめんなさい…」
後で謝っておきますと、カスミは小さな声で言った。袋を閉じて大事そうに持つと、またヤマトを笑顔で見上げた。
「テンゾウさん。あの子に戦線布告されたら、戦ってくれます?」
「もう、また変なこと言って誤魔化す」
「それだけ自分のことを思っていてくれるって感じ、少し憧れるんですよね…ふふ」
「何だいそれ。僕にはわからないな」
クスクスと笑うカスミを置いて、ヤマトは歩き出した。カスミは慌ててヤマトの後を追った。ふわふわと柔らかな髪が揺れている。
「あ、待ってくださいよ、テンゾウさん。…折角久しぶりに会えたのに」
隣を歩くカスミの持つ袋が、カサカサと音を立てている。彼女はやけにご機嫌で、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気でいる。
(呑気そうに振舞ってるけど…)
ヤマトは彼女の態度が気になっていた。通りの脇に寄って、立ち止まり、カスミの顔を見る。彼女もぴたりと立ち止まった。