第2章 後編
「んー、でも…」
意外にもカスミの楽し気な声が聞こえ、ヤマトは視線を上げた。彼女は頬杖をついて、片手の指先で空になった湯呑みをすうっと撫でている。
「あのとき私、ちょっとドキッとしたんですよね。あんな表情でテンゾウさんに覗き込まれるなんて思わなくて」
「え…」
「初めて見ましたから。テンゾウさんのあんな心配そうな顔」
カスミは白い指先で何度か湯呑みを撫でた後、意味ありげにヤマトを見て微笑んだ。
「よっぽど可愛い子だったんですね」
妙に色っぽい仕草に戸惑い、ヤマトは視線を逸らせた。
「何を言ってるんだい。まったく、もう」
ヤマトは飲み終えた湯呑みを置いて立ち上がった。
「そろそろ行くよ」
「じゃあ、私も」
カスミはまだ含み笑いをしている。その柔らかな声を耳にしながら、ヤマトは団子屋から外へ出た。気づくと耳が熱くなっている。
(そう言えば…)
カスミといると、どうも調子が狂う。
暗部で共に任務に取り組んでいた頃を、ヤマトはふっと思い出した。