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迷い犬

第2章 後編


「…殴り飛ばしたって?」

「……はい」

尊敬する人を侮辱されたことが原因で、カスミは一瞬の内にその男を壁にたたきつけたのだという。店の壁にはヒビが入り、店の主には白い目で見られ、報告で訪れた火影室では、五代目にひどく叱責されたらしい。

カスミは、体を小さくして俯いた。

「綱手様からは、下忍からやり直せ、って言われてしまって」
「それは…そうだろうね」

五代目の怒号が耳に響いてくるように感じる。ヤマトは、目の前でうなだれているカスミに同情した。

情報を入手した後だと言え、諜報活動において周囲に感づかれるのはご法度だ。ましてや暗部の忍がそんな目立つ行動をとるのは、致命的だと言える。男は眠らせて、店の主にもそれらしい話をして後始末はしたというも、五代目の叱責は最もだった。

「はあ…。で、今あの子たちと任務をね」
「そうなんです。迷い猫探しとか、草むしり、農家の収穫の手伝いとか」
「……」

もじもじとしながら任務内容について話すカスミは、心なしか楽しそうに見えた。

「任務はいいんですけど、班の上忍の方とギクシャクしていて」
「何故だい?むしろ歳が近くて良さそうじゃないか」
「ほぼ同年ですね。それが、敬語になったり、タメ口になったりして、ちょっと居心地悪そうで」
「まあ、それもそうか」

通常であれば一回りは離れている関係のところ、同年の部下が出来たらどうだろう。

難易度の高い任務であれば、年上の班員ということもありうるが、アカデミー卒業生がほとんどの班に大人が紛れ込む、というのは確かに扱いに困ると思われる。

ヤマトは、可笑しそうに笑うカスミを見て、困り果てた上忍の姿を想像した。

「その人、気の毒だなぁ」
「…ほんと、申し訳なくて」

班の子はいい子たちばかりで、とカスミは呟くと、ほっとしたように湯呑みに手を伸ばした。
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