第2章 後編
「ふーん。ま、いっか。ところでさ、猫見つかった?あっちにはいなかったんだけど」
「いたいた。この塀の裏側で涼んでる」
「え?マジで?よーし、俺がつかまえてやる!」
少年はカスミの言葉に奮起して、木の塀を勢いよくよじ登った。塀の裏側を覗き込んで、大きな声で叫ぶ。
「あー!逃げたぁ!」
そんなに高らかに声を上げたら、当然逃げるだろうと思いつつも、ヤマトは塀の上の少年の動きを黙って見ていた。
気配を追って視線を動かすと、猫は木塀の傍に生えている樹を軽々と登っていた。そして、高い位置の枝に上がり切り、悠々とこちらを見下ろしている。
「テンゾウさん、ごめんなさい。私、ちょっと任務中で…失礼します」
カスミは申し訳なさそうにそう告げて、あっという間に樹の枝に降り立った。驚いている猫をさっと抱き寄せたと思うと、すぐに先ほどいた場所に姿を現す。
「よし!これで任務完了」
塀にへばりついていた少年が、慌てて地面に降りた。ドタバタとカスミに走り寄り、大人しく抱かれている猫を凝視した。
「くそう!またカスミに先越されたぁ!今日こそは、って思ったのにぃ~」
彼は大きな溜息をついて、心底悔しそうに言った。
「残念でした~。今日も団子一本おごりね」
「ちぇ!五戦四敗一引き分けかよ」
がっかりしている少年に、穏やかな笑顔で話しかけるカスミ。
今まで見たことのない表情で、思わず目を見張る。彼女の様子が気になったのだが、ヤマトは目線で別れを告げて、静かにその場を立ち去った。