第2章 後編
女性はヤマトから一歩離れて、顔を上げた。黒目勝ちな瞳がヤマトを見上げている。柔らかそうな細い髪が少し揺れた。
「…お久しぶりです。テンゾウさん」
暗部の頃の通称で呼ばれて、彼女が顔見知りの女性だと気が付く。ヤマトは驚いて目を見開いた。何と目の前の人物は、当時同じ班で活動をしていたカスミだったのだ。
「君、もしかしてカスミかい?」
まだうっすら頬を染めたまま、彼女はこくりと頷いた。
*
カスミは暗部のくノ一だ。
カカシを隊長とした班に、ヤマトと共に配属されたこともあり、三代目在任時から所属し、現在の五代目火影の綱手にも重用されている。
その彼女が、何故こんな時間帯に仮面もつけずにいるのかと、ヤマトは不思議に思った。
衣服は軽装で、籠手(こて)も着けていない。それなのに、額には少し古びた額宛てがあった。つまり、休暇という訳ではない。
「カスミ…君一体…」
ヤマトが呟いた言葉は、元気な少年のひと声で搔き消された。
「おーい。カスミ~!」
ヤマトが振り向くと、新品の額宛てをした少年がこちらに駆けてきた。アカデミーを卒業したばかりの下忍、そんな雰囲気を醸し出している。カスミもまた、声がした方に顔を向けた。
「あ、こんにちはぁ」
少年がヤマトを一度見上げてから、ぺこりと頭を下げた。
「やあ」
ヤマトが微笑むと、少年は戸惑いを見せた。ヤマトとカスミを交互に見てから、ゆっくりと口を開く。
「……カスミの知ってる人?」
「うん。ちょっとね」
カスミは困ったように微笑んで、言葉を濁した。少年はもう一度、ヤマトをちらと見たが、それ以上深くは聞いてこなかった。