第1章 前編
その夜、ヤマトは夢を見た。
うとうととベッドでまどろんでいると、誰かが傍に寄ってくる。ふわふわとした髪の毛が頬に触れ、微かに甘い香りが漂う。
覆いかぶさるように近づいてきた人物は、ヤマトの頬に優しく口づけを落とした。そして、驚いたことに、その後滑らかな舌で頬をペロリと舐めてきたのだ。
(ええ!?)
(一体誰だ?)
薄く目を開けると、ぼんやりと可愛らしい顔が見えた気がした。彼女はまた頬に口を近づけて…。
「うわっ」
勢いよく起き上がると、子犬が驚いてヤマトを見つめていた。
「…何だ。君か……」
ヤマトは大きく息をついて、頭を掻いた。窓の方を見やると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
ヤマトは隣に座り込んでいる子犬の顔をもう一度見た。きょとんと小首を傾げている様子は可愛らしい。夢で見た女性の面影と、似ている気がしなくもない。
(……欲求不満なんだろうか)
最近は任務に忙しく、色恋とは縁がない。と言っても、まさか子犬が人間に変化したような女性が夢に現れるとは予想していなかった。
気恥ずかしさから、ヤマトは顔に熱が集まるのを感じた。両手で顔をこすり、大きく溜息を吐く。
「朝食を用意するよ…」
ヤマトは小さく呟いて、ベッドから起き上がった。