第1章 前編
着替えて洗面所に向かうと、子犬が嬉しそうに付いてくる。半月ほど続いたこの生活は、今日で終わりを迎える。里親に引き渡すために、朝食後にはある場所へと向かう予定だった。
(これで最後か…)
ヤマトは身支度を整えて、台所へと向かった。自分の朝食と子犬の餌を用意して、居間の座卓で食事を取る。
一瞬ではあるが、いつまでも続いていく毎日のように感じたこともあったのだ。それが、今は名残惜しくて仕方がない。
ヤマトは箸を持ったまま、子犬が餌を旨そうに食べる様子をじっと見ていた。
(そう言えば先輩が言っていたな)
腹は減っている気がするも、あまり箸は進まない。
(そんな感傷的な性格だとは思ってなかったけど…)
食事は途中だったが、ヤマトは箸を置いた。子犬は一心不乱に餌を食べ続けている。
(情が湧くって、こういうことか)
改めて気づいた感情に、ヤマトは一人笑った。
「君を引き取ってくれる人達、優しい人だといいな」
まるで自分に言い聞かせるようにそう言って、ヤマトは餌を食べ終わりしっぽを揺らしている子犬を見つめた。