第1章 前編
任務と子犬の世話に追われて、また数日が過ぎた。
一日戻れない任務の際には、サクラに預かってもらう。彼女は医療忍術の使い手だから、何かあったとしても安心だと踏んでのことだ。「もちろん、いいですよ」と笑顔で了承してくれて、ヤマトはほっと息をついた。
ヤマトが自宅に戻ると、玄関先に子犬が喜び勇んで駆けてくるようになった頃。
ついにカカシから里親が見つかったという連絡があった。ヤマトが上忍待機所で次の任務の命を待っている際に、カカシがふらりと現れたのだ。
「ヤマト、朗報だ。里親になってくれるっていう人が見つかった」
カカシが比較的明るい声でそう言ったにも関わらず、ヤマトの反応は薄かった。
「…そうですか。それは良かった」
「何だ、あんまり嬉しそうじゃないな」
「そんなことありませんよ。それで、どんな方なんです?」
ソファーに一人座っていたヤマトが顔を上げた。何か雑誌に目を通していたようだ。カカシは、ヤマトの向い側に腰を下ろした。
「ああ。数年前に忍家業を引退した老夫婦でな。二人暮らしだし、生き物を育てようかと考えていたらしい。ツメさんの遠い親戚でさ。動物の扱いには慣れてるから、安心して任せられる人達だって言ってたよ」
「そうか、それなら…。いつ頃連れてきたらいいですか?」
「明日にでも引き取れるそうだ。向こうはいつでも構わないって」
ヤマトは膝に置いていた雑誌を一旦閉じて、手に持った。
「なら、明日連れてきます」
「そうか…。お前がいいなら、そう伝えておくよ」
戸口で誰かがヤマトを呼んでいる。次の任務の話らしく、ヤマトはすぐに立ち上がった。
「じゃあ、僕はこれで」
「ああ。子犬のこと、よろしく」
振り返って頷くヤマトの顔は、どことなくぎこちなかった。任務時には無表情を装っているが、彼は暗部の頃に比べると随分と表情豊かになったとカカシは思っている。
(自分では顔に出てないと思ってるからな…ヤマトの奴)
ふっと笑って、カカシは腰につけているポーチから本を取り出した。何度も読み返している愛読書だ。静かな待機所で、カカシはしばらく読書に没頭した。