第1章 前編
ヤマトはしゅんとした様子の子犬の傍らに座り込んだ。その小さな背をそっと撫でる。
「はは。そうか…君は、僕と一緒だったんだね」
ヤマトの何気ない呟きを、カカシは聞くともなく聞いていた。ポケットに入れた片手を出して、後頭部を撫でる。
「残念だが、仕方ない」
「ええ」
「後は、この子をもらってくれる人を探そうか。人懐っこい子だ。すぐ見つかるさ」
「そうですね」
ヤマトが立ち上がると、子犬も顔を上げた。パックンが子犬に近づき、子犬の顔を舐めた。子犬はくすぐったそうにしている。
「お主も元気を出せ。いつでも儂が守ってやるからな」
いつになく真面目なことを言うパックンに、カカシが驚いて目を丸くする。
「パックン、一体どうしたの。珍しいこと言うね」
「か弱い女子を守るのは、男子の務めじゃ。じゃが…儂の好みはやはり、もう少し大人の色気がある…」
「あのね、この子まだ子犬よ?パックンの好みはいいからさ」
カカシが再度溜息をつくと、パックンは用は済んだとばかりに姿を消した。
「ではな、カカシ」
「助かったよ、パックン」
カカシはパックンの消えた一点をじっと見つめていたが、ふと顔を上げて、小鳥のさえずりが響く境内をもう一度見渡した。
二人が抱いていた微かな期待は、見事に外れてしまった。
幾分落ち込んだ様子を見せる子犬を見下ろして、カカシはヤマトに言った。
「里親探しは続けてるから、その内いい貰い手が見つかるさ」
「…そうですね」
「またしばらく頼むことになるが…」
「ええ、それは構いませんよ」
その言葉に即答するヤマトに、カカシは驚いていた。
「ヤマト。お前もしかして、情が湧いたんじゃないの?世話役嫌がってたのに」
「まさか」
ヤマトは軽く笑いながら、まだ背を丸めて座り込んでいる子犬の傍に座り込む。その顔を覗き込み、優しく語り掛けた。
「さあ、帰ろうか」
戸惑う子犬を抱きかかえて、ヤマトは歩き出した。キュウと甘えた声を上げる子犬を優し気な表情で見つめ、その背を撫でている。
「そういうのをさ。情が湧いたって言うと、俺は思うけどね」
呆れたように一つ息を吐いて、カカシもまた歩き出した。