第1章 前編
パックンの先導でたどり着いた先は、中心部から少し外れた神社だった。広い境内の中央に社がある。地面に鼻を付け、時々匂いを確認しながら、パックンは社の縁の下で足を止めた。
「ふむ…ここで匂いは途切れておるな」
社の下の更に奥に進むパックンを追って、カカシとヤマトは背をかがめて社の下に潜り込んだ。湿った土の匂いがする。しばらく膝をついて狭い空間を進むと、ちょうど社の中央辺りにくぼみがあった。
「ここじゃな」
「地面が少しへこんでますね」
ヤマトは深さを確認するように、くぼみに手を置いた。動物一匹分くらいのくぼみを見て、カカシが感づき口を開いた。
「なるほどね。ここで生まれて、ってことか」
「母犬はどうしたんでしょうか?この子を置いてどこかへ?」
外の明かりが仄かに差し込む中で、ヤマトは眉をひそめた。
「いや、どうもそうではないようじゃ」
パックンはまた地面の匂いをたどりつつ、社の下から出た。二人と一匹もそれに続く。薄暗がりから這い出してすぐの眩しい光に、目を細める。一瞬ぼんやりとした視界に、パックンがスタスタと一直線に歩く姿が見えた。
境内の大樹の下に土を盛った場所があった。短めの木の板が、盛り土の上に差し込んである。
「ああ…」
ヤマトは思わず声を漏らした。
「母犬は産後の日達が悪かったのかもしれんな」
見落としてしまいそうな簡素な墓は、この子犬の母犬のもののようだった。子犬が盛り土に近づき、一声「キュウン」と悲し気な鳴き声を上げた。うなだれて座り込んでいる。
「母犬の傍を離れて迷子になったか、もしくは亡くなってから歩きまわっていたか…。兄弟はいないか…」
心なしか沈んだ声で、カカシが呟いた。
境内には人影も動物の気配もなかった。聞こえるのは、大樹に止まっている鳥のさえずりだけ。