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迷い犬

第1章 前編


「ふうん。結構可愛いわね」

興味を持ったのか、アンコは子犬をじっと見つめている。と言っても、彼女の鋭い視線は、紅のそれとは少し違って見えた。まるで獲物を捕らえるハンターのような雰囲気を醸し出している。

それに気づいたのか、子犬はブルッと身を震わせて、紅の膝から飛び降りた。素早くソファーの後ろに回り込んでいく。

「あ」
「ちょ、ちょっとアンコさん。怖がらせないでくださいよ。まだ小さいんですから」


ヤマトが諫めると、アンコが嫌そうな顔をした。眉間にしわを寄せて、ヤマトを睨みつける。

「何よ。普通に見ただけだってのに。アンタ感じ悪いわね」
「そんなつもりは…」

矛先が自分に向いたのを感じて、ヤマトはかぶりを振った。

元々、伝説の三忍の大蛇丸の弟子だった彼女は好戦的な性格で、絡まれると中々に厄介な存在だった。そのためヤマトは軽く否定して、曖昧な笑いを浮かべる。

子犬はというと、ソファーをぐるりと一廻りして、ヤマトの足元に戻ってきた。寄り添って、ちょこんとお座りをしている。

「ふうん。なんか知らないけど、アンタに随分懐いてんのね」
「はあ。それが不思議と」

アンコは目を細めてヤマトを眺めていたが、しばらくすると興味を無くたのか、手に持っていたお茶をぐっと飲んだ。

「まあ、いいわ。別に取って食おうって訳じゃないし」
「お前、恐ろしいこと言うな…」

一息ついてそう言うアンコに、二本目の煙草に火をつけたアスマがポツリと呟いた。
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