第1章 前編
「へぇ。可愛い顔してんなぁ」
アスマも子犬を撫でようと、ソファーから立ち上がり紅の傍に近づいた。子犬の顔を覗き込んだとき、子犬はススッと、後退った。
「お?」
「あら、アスマは駄目なの?」
「おいおい。やけに人を選ぶな…。今人懐っこいって話してただろ。まさか男は苦手だとかないよな」
撫でようとした手を引っ込めて、アスマがヤマトを見た。
「そうですね。特に性別で態度は違いませんでしたけど…。カカシ先輩とか、ナルトやサイも普通に撫でてましたし。変ですね」
見つけた当初や、今朝のやり取りを思い出しながらヤマトが言うと、アスマはがっかりしたように、また元の場所に腰を下ろした。彼の落胆ぶりを見て、紅がくすりと笑った。
「アスマは、煙草臭いのよ。ねぇ」
「ワン」
紅が微笑みながらそう言うと、子犬がすぐに応えた。
「…何だよ。まるで言葉が分かるみたいだな」
その様子を見て、アスマはバツが悪そうに頭を搔いた。
*
しばらく三人で雑談をしていると、また一人と上忍が顔を出した。
「おはよ。紅、今日待機なの?」
「アンコじゃない。久しぶりね。追跡調査は終わったの?」
「まあね。すぐ次の任務に入るけど、ちょっと休憩させて」
黒髪を結い上げた女性が、アスマの横を陣取った。手にお茶のカップと、和菓子屋の袋を下げている。
アンコはドサリと座り、「ああ、疲れた」と足を組んだ。向かいに座っている紅の膝を見て、彼女は身を乗り出した。
「何、その子犬?誰かの忍犬?」
彼女の問いに、ヤマトが答える。
「ああ、ええと。迷い犬なんです。カカシ先輩が捜索に協力してくれる話になっていて、今日連れてきたんですよ」
袋を脇に置き、アンコは正面を向いた。
「ん?ヤマト、アンタの犬なの?」
「僕の、って訳じゃありませんけど…。一時的に預かって世話してるんです」