第1章 前編
ナルト達と別れ、ヤマトはアカデミー内にある上忍待機所の扉を開けた。後ろをちょこちょこと着いてきた子犬を抱きかかえて、室内に入る。
「おはようございます」
見ると、既に二人が待機中だった。中央に備え付けられているソファーに座っている。第八班の担当上忍の夕日紅と、第十班の猿飛アスマだ。
本に目を落としている紅と、煙草の煙をくゆらせているアスマが同時に顔を上げた。
「おお、ヤマト。お前も待機か」
「ええ。多分今日呼び出しはないかと思いますけど」
「おはよう。早いのね」
「おはようございます、紅さん」
ヤマトは二人に挨拶をした後、室内を見渡した。子犬を連れてこいと言っていた、カカシの姿はまだない。
「カカシ先輩は、まだ来ていないようですね」
「ん?ああ、あいつはまあ、時間通りに来たことはあまりないからな。その内来るだろ」
「そうね。何か雑談をしてる内に、ふっと現れたりして…神出鬼没よね」
二人が顔を見合わせて笑う。
仕方なくヤマトは子犬を抱えて、空いているソファの隅に腰を下ろした。
「で?その子犬は何なんだ?随分と大事に抱えてるみたいだが…」
アスマが煙草を吸い終えたのか、灰皿の上で残った軸の火を消した。
「ああ、実は迷い犬みたいで。カカシ先輩が子犬の行方を探すのに、手を貸してくれる話になってまして、今日連れてきたんです。匂いを追ってみようかと」
「ほお、あいつがねぇ。忍犬を使うってか?」
「はい。パックンに頼むと言ってましたよ」
ヤマトは子犬が大人しくしているのを見て、床に下ろした。物珍しそうに室内を眺めてから、子犬は近くにいた紅の足元に近づいて行った。彼女を見上げて、ふるふるとしっぽを軽く振る。
「あら、可愛い。人懐っこいのね」
紅が手に持った本を置いて、子犬を抱き上げた。膝にのせると、子犬は嬉しそうに彼女の顔を見上げる。
「ええ。人を怖がらないのが不思議で…。どうも、飼い犬ではないようなんですが」