第1章 前編
「でも…あれから三日は経ちますよね。匂いってたどれるものなんですか?」
「うーん。それはどうだろう?僕もイマイチわからないな。カカシさんは多少匂いは残ってるだろうから、って言ってたけど」
ヤマトは二人の向かい側に片膝をついた。子犬を取り囲むように座り、三人は首をひねる。ナルトもサクラも動物に関する知識はあまり多くない。ヤマトもまた、一般的ことしか知らなかった。
「犬って帰巣本能があるって言いますよね。子犬だと難しいのかしら」
サクラがぽつりと呟く。
「そうだなぁ。長く住んでいる土地であれば…或いは。でも、これだけ幼いと難しいのかもね」
子犬は乳離れして間もないくらいの歳だ。親犬の匂いは覚えているかもしれないが、遠く離れてしまうとさすがにわからないのだろうと三人は結論づけた。
しばしの沈黙の後、不意にナルトが子犬の体を両手で掴んで持ち上げた。そのまま立ち上がり、二カッと笑いかける。
「お前。父ちゃんと母ちゃんが早く見つかるといいな」
「ワン!」
子犬はナルトに応えるように一声鳴いて、大きくしっぽを振った。立ち上がったサクラが、そんなナルトを目を細めて見つめている。彼女はとても複雑な表情をしていた。切なげで、それでいて彼を見守るようなそんな顔。
「そうだね。…僕もそう思うよ」
そう言ってヤマトも立ち上がった。目の前には子犬を両手で高く持ち上げるナルトがいる。
ナルトは両親を知らずに育った少年だ。それなのに、何のこだわりもなく子犬を励ましている。彼の持つ真っ直ぐな優しさが少し眩しくて、ヤマトもまた目を細めた。