第1章 前編
翌日の早朝、ヤマトは子犬を連れて家を出た。
白々と夜が明ける空を眺める。
後ろを振り返ると、子犬がヤマトの後を着いてきている。様子を窺うように顔を見上げて、ゆっくりとしっぽを揺らす。
こうして子犬を外に連れ出すことは何度かしていた。家の中だけでは運動不足になるだろうと、時間があるときは散歩をさせていたからだ。
(それにしても…)
首輪をつけて紐を引いている訳でもないのに、子犬はヤマトと付かず離れずの距離を保ちながら傍を歩く。先を歩いていても、ヤマトが立ち止まれば振り返って戻ってきたり、道端に鼻を寄せて匂いを嗅いでいても、少し距離が出来ると慌てて追いかけてくる。
部屋にいるときも大人しいものだ。
暴れて部屋を荒らすこともないし、餌も勝手に食べてしまうことはなく、こちらが勧めるまでお座りをしてじっと待つ。敢て言えば、夜布団に潜り込んでくることくらいだった。
まだ預かってから、二、三日しか経っていない。
カカシの話によると捨て犬の可能性が高いというのに、この賢さはどうだろうとヤマトは思う。
(何だろう…。個体差があるってことなのかな)
ヤマトは日常的に動物を傍に置いたことがなく、カカシの扱う忍犬のイメージか、愛玩犬として飼われる犬のイメージが強かった。だから、ただ世話をしているだけで、こうも自分の意思がスムーズに伝わるのが不思議でならなかった。
まだ人通りの少ない道を、そんなことを考えながら歩く。
眩しい朝日が、ヤマトと子犬の行く先を照らした。
*
アカデミーまで後わずかという距離になり、ヤマトが表通りの角を曲がった時だった。前方に人の気配が生まれた。
「ヤマト隊長!」
ヤマトが前方を見やると、ナルトが大きく手を振りながらこちらに駆けてくる。後ろにはサクラがいた。「おはようございます」と小走りにナルトに続いて近づいてくる。