第1章 出会い
(ここ…巨大樹の森だったんだ…!!)
自分が愛してやまない作品の世界を体験できた喜びよりも今まさに人が巨人に食われそうになっている恐怖をユミは味わっていた。三日三晩飲まず食わずで歩き通しだった彼女には、巨人に姿を補足されても逃げ切れる自身はなかった。そうだというのに、彼女の口は勝手に動きだしていた。
「継承者ァ!」
「!?」
巨人の動きが止まった。その下にいる兵士らしき人もこちらを驚いた表情で見つめているだろう。ユミは続けて腹筋に力を込める。
「巨人の継承者がここにいるぞー!人間に戻れるぞー!!」
巨人の中に人間だった頃の記憶があればという微かすぎる望みにかけてユミは叫び続けた。次の瞬間、巨人がこっちを向いたかと思うと、ものすごい勢いでこちらに飛びついてきた。
「ッ!!」
踵を返す間も走馬灯を見る間もなくその距離がゼロになりかけた時、突然巨人は地面に激突した。
「へ…」
「大丈夫か」
蒸気を噴き出す巨人の後頭部から、長身の金髪が顔をのぞかせる。右手はまだ健在で、自分が知っているよりも若く見えるその男は、腰を抜かしたユミの側まで飛び降りると手を差し伸べた。ユミがその手を取ると、エルヴィンは彼女を勢いよく引っ張りあげた。
「まずは、礼を言おう。私たちの仲間を助けてくれてありがとう」
「い、いえ!いえ全く…じ、自分はただ叫んだだけで、うわ」
まるで産まれたての子鹿のような足腰は全くユミの言うことを聞かない。地面にへたり混みそうになったところを、今度は別の兵士が抱き抱えた。
「おっと、大丈夫かい?」
「す、すみません…今更腰が抜けちゃって」
「そりゃ対抗する術もなく巨人と対峙すれば無理もないよ、ほんとにありがとう!ところで…」
彼…彼女と言うべきか、はその表情を好奇心の色一色に染めあげて興奮気味にユミを捲し立てた。
「君はどこから来たの?なぜ壁の外にいるの?どうやって生き残ってきたんだい?さっき巨人の気を引く時なんて言ってたのかよくわかんなかったんだけど、是非教えて…」
「そこまでだ、ハンジ。ここは壁の外で、彼女は君の恩人かつ丸腰な上、我々は隊とはぐれてしまっている。まずは壁内まで戻らなくては」
「…まあ、エルヴィンの言う通りだ」
ハンジは不服そうにしながらも渋々彼に従った。ハンジに質問攻めを受けるからとユミはエルヴィンの馬に乗ることになった。
