第1章 出会い
背中には本が何冊か入った重たいリュック、右手にはこれまた重たいパソコン、事故の衝撃で吹っ飛んだと思った無線イヤホンからはまだ呑気に曲が流れ続けている。
ユミは困惑していた。さっきまでユミは最寄り駅からの帰り道を普通に歩いていた。横断歩道を渡っている時に信号無視した車に突っ込まれたと気づいたのは宙を舞った自分の体が地面に叩きつけられた後だった。痛くは無いが動きもしない。即死とはこういうものか、まだ資格取れてなかったのになと妙に落ち着いていると眠気が襲ってきて、気づくと今の状態になっていた。
(あのまま死んだのならここはあの世なのかな)
だとしたら宗教家たちの考える天国だとか極楽浄土は随分な的外れだったな、とユミは現実逃避をする。およそ森歩きにはそぐわない薄手のシャツにフレアパンツとローファーという自身の格好を恨みながらも、とにかく森を出ないことには始まらないとスマホを取り出す。しかし案の定圏外で使えず、現代人ユミは本格的に不安になってきた。まさかここは自分が元いた世界とは全く別の場所で、もうこのスマホが役に立つことは無いのではないか、と。
こんなことなら帰りに美味しいコーヒーでも買ってくればよかった、という自分の考えに気づいたあたりから泣けてきたため、周りに人もいないようだしと耳元から流れる音楽に合わせて声を出す。
(なんか道徳の本で助けを求めるより歌った方が気持ちも明るくなるし救助してもらえる話があった気がするし!)
それは人数がいて合わせて歌って初めて成り立つ話だということからは目を背けた。後者はともかく前者の効果は現れ始め、ユミは持ち前の楽観力で前進し始めた。
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あれから何日経っただろうか。
そうだ3日だ、3日飲まず食わずで歩き続けている。
もう歌う元気も残っていない。
正直希望も何も無い。
なんなのだろうか、事故で痛みもなく楽に死んだから心新たにもう一度苦しんで死ねと言われているのだろうか。
そんな訳の分からないことを考えた時、遠くから悲鳴が聞こえた。ハッと顔を上げると、悲鳴の音量からは考えられないほど近くに全裸の人間が見える。と思ったら違う。悲鳴をあげたのはその全裸の人間もどきの下にいる、音量にあった大きさの人間で、それと比べれば上の人間もどきはどこからどう見ても人間ではなく。
(巨人…!)
