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花の夢を視る[占庭]

第1章 トゲの夢


「……っ!」

 飛び起きると、朝になっていた。止まり木にいる梟が少し驚いたようにこちらを見据える。

 私は梟を肩にすぐに部屋を飛び出した。そこにはイソップが立っていて、小声で「今起こしにこようとしてたんですけど……」と言われたのを軽く会釈だけ返して階段を下りた。

 食堂へ向かうとすでに朝食を済ませているサバイバーたちもちらちらといて、よう、イライ、今日の試合よろしくなという挨拶もそこそこにして足早に中庭へ向かうと、夢の中で視た通り、エマさんがそこに座り込んでいた。

 私の視たものが正しければ、エマさんはそこにあるイバラに指を引っ掛けてしまう。

「エマさん……」

 なんて話し掛けようか考える間もなく私は彼女の名前を呼んでいた。

 麦わら帽子が半回転して私を振り向く。

「あ、イライくん、おはようなの!」

 やはり、彼女の笑顔は花のように心に溶けていく。

「……おはようございます、エマさん」

「あ、イライくん、初めてエマの名前呼んだなの!」

「そ、そうかな……」

 私は目を逸らし……といっても目隠しはしてあったから、エマさんに瞳の奥まで覗かれることはないのだろうが……花壇の方を見やった。

「イバラがあるから気をつけた方がいいですよ」

「え、そうなの?」

「はい、こちらに」

「あ、ほんとだ! こんなところに!」

 それでもどこか楽しげに笑うエマさんの横顔が幸せだった。私はこのまま時間が止まればいいと思った。

 私はエマさんの頬に触れた。大きな目が何度も瞬きして、イライくん? と私の名前を呼ぶ。私も笑みを返した。

「土がついていましたので」

「ありがとなの!」エマさんが土だらけの両手を前の方で広げた。「あ、土だらけだったの〜」

「土のいい香りがします」

 私がそう言うと、エマさんはにこやかに笑った。それからエマさんは立ち上がって、朝ごはんを食べると言い出した。

「私も行きます」

 私たちは、中庭を後にした。
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