第1章 淡い夢
「 の見舞いへ行ってくる 」
早朝、火をおこしている最中のイズナビにそう告げ、私は森を出た。辺りはまだ薄暗く、小鳥が小さく鳴き始めている。
受付を通り、エレベーターに入った。軽い貧血でも個室を用意させたのは、万が一のときの為だ。にしてもハンターライセンスはこんな使い方まで出来るのか、と勉強にもなった。
行き慣れた廊下を歩き、表札を確認し扉を開ければは居た。窓の方を向いて寝ているようだ。
私は椅子を窓際に移し、彼女の寝顔を眺めた。
とくとく、と鼓動が静かに早くなっていく。
頬に影を落とすカールした睫毛、通った鼻筋、薄く開いた桃色の唇、白く陶器のようになめらかな輪郭、猫っ毛な長い髪。彼女の全てが全身の神経を刺激した。
どうしようもないこの感情は今に始まったことじゃない。私は昔からに好意を寄せていた。確証は無いけど多分、初めて会ったその日から。
どくどく、と鼓動が大きく激しくなっていく。
触れたい。
その白く陶器のようになめらかな輪郭に。
薄く開いた桃色の唇に。
触れてみたい。
ダメだと分かっていても考えるより先に体は動いていた。そっと彼女の頬へ触れる瞬間。彼女の胡桃染(くるみぞめ)色の瞳と目が合い、急いで手を引いた。
まだ意識が覚醒していないのか、虚ろな目をして私を見つめる。私が名前を呼べばゆっくり目を見開いて飛び起きた。
その様子が可笑しくて笑いを漏らせば、は顔を真っ赤にして無邪気に怒った。愛おしい、そんな感情と自分のモノにしたい、という黒い感情が混ざり合う。
「 」
『 もー、来るなら言ってよ! 』
「 ふふっ、すまない 」
ぷんすかとはしゃぐを見ていたら、黒い感情より甘い感情が勝ったようだった。