第14章 バトラー・ガブリエル
それは、ほんの数分前だった。
人の気配に敏感なぼんじゅうる、ことぼん・バトラー・ガブリエル準男爵は、アサヒが姉と対峙した直後くらいに、ふらりとその場から離れた。
ぼんは遠くの騒ぎに気づいていたみたいだった。それがなんなのか確かめるために木陰伝いに様子を伺うと、そこには数人の人間たちがいた。
「あいつ、金持ちってだけでいい気になりやがって!」
「あんな変なコウモリなんてたまたまですよ、兄貴」
「そうっすよ……今度こそボコボコにしてやりましょうぜ」
彼らの話す人間の言葉は、ぼんにはあまり理解は出来なかった。ただ、声の大きさや調子から、悪い言葉を吐いていたのだけは分かった。ぼんはじっと、枝からぶら下がって人間たちの様子を見張り続けた。
「憂さ晴らしにアレ、やるか」
「へっへっへっ、いいっすね!」
「オレ、ライター持ってるっすよ!」
そうして人間たちが話しているのをぼんが眺めていると、その内の一人が赤く光るものを手にしていた。
その赤い光をそこにあった枯葉のそばに置き……いや、違う! あれは炎だ! とぼんが思わず声を上げて飛び上がると、そこにいた人間たちに気付かれてしまった。
「まさか、誰かに見られたか……?!」
「いやいや、ただの鳥かなんかすっよ」
「……そこだっ!」
「あ、兄貴?!」
「ギィ?!」
ぼんは人間が投げてきた石に羽がぶつかってしまい、ふらついた。すぐに体勢を整えようとしたが、人間の手が伸びてきてぼんは捕まってしまった。
「丁度いいところにコウモリがいたなんてなぁ」人間はぼんを捕まえながらそう言った。「お前に恨みはないんだがな? お前と似たようなやつが腹立つことをしてなぁ?!」
ちょっと遊んでもらおうか!
人間のその言葉を最後に、ぼんは意識を失った。目の前でどんどんと広がる炎と複数人の人間たちを前に……。