第2章 少女の頃
目を覚ますとそこに桃弥さんの姿はなかった。
昨夜起こったことは夢だと思いたかったけど、起きた拍子に体内から二人の名残が溢れてきて夢ではなかったと思い知らされる。
「おはよう。今日はゆっくりと休むといい」
すぐ側で杏壱さんが、いつものように穏やかな笑みを浮かべている。
「あの……桃弥さんは?」
「さぁね。…けどまぁ、やがて戻ってくるだろう」
意味深な言い方にそれ以上なにも聞けなくなる。
でも、もう桃弥さんは帰って来ないだろう。
アレは1度きりのこと。
きっともう会うことは無い、だから忘れた方がいい、そう思った。
「杏壱さん、私、湯浴みがしたいです」
杏壱さんを誘って屋敷にある野風呂で身体を清めることにした。
浴衣を脱ぐと、どちらかが付けた赤い痕があちこちに残っている。
「ここの噛み跡は桃弥だね。よほど君の身体に夢中だったらしい」
湯船に浸かると杏壱さんが一つ一つを確かめるように、その痕を撫でて口付けた。
「………もう、あのようなお戯れはおやめください」
「世継ぎの為だよ」
「けれどもう嫌です!私はあなたとの子が欲しいのに……私は…杏壱さんしか、いらない」
何もかも忘れたくて夫の胸にすがり、口付けをねだった。
その要求に答えるように、優しくて暖かい唇が重なった。
「傷つけるようなことをしてすまなかった。……縄の痕もまだ残っているね。痛かったかい?」
首を横に触る。縛られることは杏壱さんからの愛情表現だと思えば辛くはない。
泣いている私の顔に、詫びるような口付けが落とされていく。
「私のこと、嫌いになったかな?」
「そんなこと……ですが、…杏壱さんは?…今でも私が好きですか?」
「私がを愛してるいるのは、今も、これからもずっと変わらないよ」
杏壱さんが私を抱き寄せてくれる。
一見、細身だが杏壱さんの胸は筋肉質で広く逞しくて、抱き締められると安心する。
私の、この世で一番大好きな人。