第1章 祭りの夜
「………よし、これで完璧」
いつもより早起きをして、村人に振る舞う料理を作り終わるともう空は夕暮れになっていた。
まだまだやることはある。
台所から出て、今夜開かれるお祭りの準備には取り掛かろうとすると夫である杏壱さんにばったりと出会ってしまった。
「、雑用などしなくていいとあれほど言っただろう。君はただ私の隣にいてくれさせすれば、それだけでいいんだよ」
呆れた顔をする杏壱さんに思わず微笑む。
中年男性らしからぬ雅な品のある容姿に、村の皆に慕われる賢く優しい夫。
二十五歳下の私を目に入れても痛くないとばかりに可愛がってくれる。
「若い娘だからと甘えたくはないのです。それにじっとしているのは性に合わなくて」
「らしいね。けれど、祭が始まったら私の傍から離れてはいけないよ。いいね?」
「……はい」
杏壱さんの言葉に顔を曇らせる。
山と谷に囲まれた小さな村。村だけで婚姻を繰り返すと血が濃くなる為、今夜開かれるお祭りでは隣の村の人達とのみだらな行為が許されるのだ。
そこで出来た子供は、村の子として大切に育てられる。なので十八歳以上であれば老いも若きも、夫婦であろうとなかろうと関係なくお淫ら三昧というわけだ。
私は二十二だけれど、十八の時に杏壱さんと結婚をしたからお祭りに参加したことはない。
親が決めた結婚ではあったけど、杏壱さんは私を大切に扱ってくれるから、今となっては結婚して良かったと心から思っている。