第3章 魚の守護霊
「実は……トイレに行って戻ろうとしたらどこが会議室だったか分からなくなってしまって」
と男性が答える。ああ、それならと、私は会議室を案内することにした。
「会議室はこちらです」
「ありがとうございます!」
私が会議室へ案内する数分の間、男性の周りにいた守護霊はいつの間にかピンク色をした魚だけとなっていた。その魚があまりにも綺麗だったのでついそちらに目が向いてしまうのだが、男性もあまり気にしていないみたいなので不審がられることはなく会議室に到着した。
「こちらです」
「ありがとうございます!」
私は男性にとても感謝をされた。他にも何か言われた気もするのだが、とにかく周りにいるピンクの魚がふわふわと浮いているのが視界に入ってくるものだから、私にとってはそれどころではなかった。
そうこうしている間に、会議室から扉がガチャリと開いた。私たちの視線は扉の方へ向く。
「あれ、ヒカック、戻ってたんだね」
ドズルさんだった。
「すみません、迷子になっていました」
ヒカックと呼ばれた男性は、正直にそう言って謝罪をする。
途端に紫の魚と赤い魚がヒカックさんの周りに突如現れて私はついそちらを見つめてしまった。これでもびっくりした声を抑えているつもりだ。
「みんな待ってるし、行こうか」
「はい!」
ドズルさんが私の様子に気付いたのか、そう言ってヒカックさんと共に会議室に入って行った。
では私はこれで、と引き下がろうとしたのだが、会議室から見えた眩い光に声を出すのも忘れて足が止まった。
「ヒカック迷子だったの?」
と近付いてきた男性の守護霊からだった。
その男性は、いつかのおらふくんと同じで、左右に二人いるタイプの守護霊を連れていた。しかもそこにいるのは今度は子どもではなく、美しい顔をした女性の横顔の守護霊。
「どうしたの?」
事情を知っているドズルさんが心配そうに声を掛けてきた。私はなんとか言葉を繕った。
「大丈夫です……」
まずはここから立ち去ろう、と私は思ったのだが。